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ちょっと息抜き 高島の方言(滋賀県高島市南部地域)                    中村 利和

'16.08.12記
 帰省したおり「今年も鴨川にようけえ鮎が上ってきてて、足で踏んでしまうくらい!」って聞きました。
 でも、餌になる藻が少なすぎて痩せているそうです。 帰り道に万年橋の上から覘いたら確かにうようよ
 泳いでいた。今年もうれしいことです。
 (万年橋:武曽と上拝戸の間の鴨川に架かる橋で鉄道橋のようにリベット打ちだった。永久に長持ちしそう
     なのでそれが名前の由来。台風:1953年昭和28年9月の台風13号、で壊れてしまい今は普通の鉄筋
     コンクリート橋)

'15.08.14記
 お盆でお墓参りに高島へ帰省してきました。
 頂いた料理に小鮎の佃煮があり、聞けば、地元を流れる鴨川に鮎が増えてきたとのこと。私が子供のころ
 手づかみしていましたが、長年減っていて心配していました。一番うれしい話でした。

滋賀県高島市ってご存知ですか?
高島の紹介は後回しにして早速、方言を紹介しましょう。
(ここでは平成の大合併前の滋賀県高島郡高島町の方言を中心に集めています。旧高島町特有とは言えない
ことばも載せていますが、それは地元の人の会話の雰囲気を楽しんでほしいからです。)

代表的なことばは「け?」です。◎印をつけてあります。
新 は最新の版で載せた言葉。

  高島の方言   標準的ことば       使用例

  あらし     ?(農家が自家用の夏野菜を栽培する畑) あらしでナスビとってくるわ。
  あんじょう   上手(じょうず)に    あんじょう出来て 良かったなあ。
  あんじょう   大事に         (病気見舞いに行って)あんじょうしいや。
  あんない    旨くない、まずい     このカボチャあんないなあ。
  あわさい    あいだ、隙間       ピンポンがタンスと壁のあわさいに入ってしもた。   
  いかい     でっかい、大きい     いかい犬がいて 恐ろしかったわ。
  いたびら    あぐら(胡座)      正座せんと いたびら かいてや。
  いちびり    いいかっこしい、調子のり あのこ いちびりやねん。
  いっぺん    一回           いっぺん遊びに来てや。
  いっしょくた  一緒           そんなもんといっしょくたにせんといて。
  いぬ      帰る           もう遅いし いぬわ。
  いわす     痛める          足をいわしてしもた。
  うい      ありがたい、心苦しい   そんな ぎょうさんもろて ういなあ。
  えらい     しんどい         熱があってえらいし 休むわ。
  お気張ばりやす 頑張っておられる     (あいさつで)おきばりやす。
  おき      炭火(すみび)      餅はおきで焼いたら うまいで〜
  おくどさん   かまど          かまどでご飯を炊く
  おっきん    ありがとう       (何かをもらったお礼で)おっきん。
  おっちんして  座って         (立っている子供に)おっちんして食べや。
  おっつけ    もうすぐ         おっつけ来ますやろ
  おてしょ    小皿           おてしょに つけもんとって。
  おまっとさん  お待ちどうさま     (料理を出す時に)おまっとさん。

  かい      かゆい          やぶ蚊に刺されて かいかい。
  かいて     持ち上げて       (机などをうごかす時に)そっち かいて。 
  かいな     肩            かいなを いわしたわ。
  かいらしい   可愛いらしい       かいらしい 子やなあ。
  かやす     返す          (借りたもんを返す時に)かやすで。
  かんらん    キャベツ         かんらんをきざんで食うたら美味いでえ 
  きずつない   心苦しい         そんなことしてもろてきずつないがな。
  ぎす板(すにアクセント) 五右衛門風呂の底板 木の板なので浮かんでいて、入るとき体重で沈める。
  きばる     頑張る          よう きばったはるなあ           
  ぎょうさん   沢山(たくさん)     ぎょうさん 食べてや。
  くべる    (たきぎなどを)燃やす   風呂にしば(柴)をくべる。
◎ け?      か? ですか?     (質問や確認の時に)そうけ? 帰るんけ?
  けつまづく   つまづく         けつまずいて転んだ。
  けったくそわるい 腹が立つ        あんなこと言われてけったくそわるいわ。
  げべ     (順位が)最後       げべは あいつや。
  けんど     けれど          雨やけんど 行くけ?
  こうつと    さてと          こうつと 次は・・・
  こそばい    くすぐったい       こそばいから止めて。
  ごっつぉさん  ごちそうさま      (食事を終えて)ごっつぉさんでした。
  こぼつ     壊す           家をこぼつ。
新 コルタン    コールタール       コルタンが靴に付いて取れへんわ。
                      (コールタールのこと、かって道路舗装に使われていた時代があった)
  こわい     硬い           このせんべ こわいなあ。
  こわめし    赤飯           こわめし 仏さんに先にあげてや。

  さいぜん    さっき          さいぜんの話の続きやけど・・・
  さらせ     せよ           勝手にさらせ。
  しったらしい  生意気、冷たい      知ったらしいから 嫌い。
  してはる    しておられる       京都で何してはるん?
  すい      酸っぱい         このレモン すいなあ。
  すいな     粋な           すいな柄で良いなあ。
  すかたん    失敗           すかたんしよって アホなやつや。
  すこい     ずるい、ひきょうな    すこい奴やし きらいや。
  せんど     たくさん、何回も     せんど 文句を言う。
  そうのんけ   そうですか        それ、人から聞いたけど ほんまに そうのんけ。
  そうれん    葬式、葬列        そうれんに付いて行って あめ もろたで〜
            列がお墓に着いて解散するとき、キャラメルやせんべい、バナナをもらえた。
            葬斂と書いて格調の高い表現らしいが、それは今知ったこと。
  ぞ       か            だれぞ いまいか。(誰かいないか?)

  だら      あほ          (怒るとき)だら。
  たんす     しておられる       隣のおばさんが来たんす。まだ居たんす。
  たんすがな   しておられるよ      隣のおばさんが来たんすがな。まだ居たんすがな。
  だんない    大丈夫         (失敗した友をなぐさめて)だんない だんない。
  たんねる    たずねる         すんまへんなあ、ちょっと道をたんねたいんやけんど・・・
  ちょっきり   ちょうど、ぴったし    ちょっきり払うし、お釣りいらんで〜
  ちょびっと   ちょっと         わさびをちょびっと つける。
  できんぼ    できない子        うちの子はできんぼで あかんわ。
  てったう    手伝う          田んぼ てったうわ。
  どうなろい   どうにもならない     そんな事どうなろい。
  どうもない   何ともない        こんな怪我ぐらい どうもない。
  どろまん    ?           (近所の川にいるナマズに似た魚)
  どんごろす   麻袋           どんごろすに 豆を入れる。
  どんだら    どあほ         (怒るとき)どんだら。

  なおす     片付ける         遊んだ後はオモチャをなおしや。
  なぶる     触る           大事なもんやから なぶったらあかんで。
  ぬくとい    ぬくい(温い)      ぬくとい日が続くなあ。
  ねき      根元           木のねきに肥えをやっといたで!
  ねぶる     なめる(舐める)     ソフトクリームが溶けてるでぇ はよう ねぶり。
  のく(のける) よける          うち のくし ここに座って。それ じゃまやし、のけてな。

  はいまん    早い、早くも       はいまん 帰るん?
  はっとう    とうせんぼ        はっとう はっとう(入ったらあかん)
  はしかい    (チクチクと)かゆい   いなかり(稲刈り)したら背中が はしかい。
  ひねてる    若くないこと       この芽はひねてるし固くて食えへん      
  〜ひん     (打消しの言葉)     墨が服に付いて洗おうても落ちひん。
  ふご      乳児をいれておく藁で編んだかご   やや子はふごに入れといて早う田植えをしてしまおう
  ブト      ブユ By Wikipedia、ブヨ  ブトに刺されてしもた、痛いわ
  〜へん     (打消しの言葉)     行かへん。
  へんねし    駄々をこねること     子供が へんねしをおこす。
  ほかす     捨てる          ゴミ箱にほかす。
  ほっこりした  疲れた          よう働いて ほっこりした。(京都あたりでの意味と正反対)
  ほんで     それで          ほんで 今日来たんや。

  まぜて     仲間に入れて      (遊びに)まぜて〜。
  まんがわるい  運が悪い         ほんまにまんが悪かったなあ。
  万年ぞうり   ゴムでできた草履     川(へ遊びに)行くんやったら万年ぞうり履いていきや。
                      (藁ワラぞうり よりうんと長持ちする)
  みぬき     ゆで卵          この卵 みぬきにして食べよ。
  むさ苦しい   狭い           むさ苦しい部屋で すんませんなあ。
  めんどい    醜い           めんどい姿は見せられへん。
  もどく     とろろ昆布        
  もんできて   戻ってきて        危ないから早う もんできてや。

  ややこ     赤子、赤ちゃん      かわいい ややこやなあ。
  やらかい    柔らかい、軟らかい    やらかい餅や。
  やんぺ     止めた          この遊び やんぺ。
  ようけえ    たくさん         ようけえ もろて ほんま おおきに。
  よき      斧(おの)、まさかり   よきで木を切る。
  よぼける    (歳とって)よぼよぼする まだまだ よぼけてへんで〜

「方言、地域のことば、それは歴史が育んだ無形の宝物」と言えます。
それでは高島町を昔に遡って紹介します。まずは古代の万葉集から。

「いづくにか 我が宿りせむ 高島の
   勝野の原に この日暮れなば   作者:高市黒人 万葉集(巻三)」  訓み方は参考文献1に従った

 琵琶湖西岸は北陸と京都を結ぶ主要経路の一つです。大津からこの歌に詠われている勝野までは千メートル
級の山々が連なる比良山脈と琵琶湖がせめぎ合う狭い道です。山賊がいるかも知れません。いつ襲われるかも
しれない難所をようやく抜けてきた旅人は、ここ勝野から北は広い広野に出ます。
 しかし、広野の道はいくつも枝分かれしていて道に迷う危険があります。ましてや日も暮れてきた旅人にと
っては安全な宿を求めて一泊し、明朝に出発するのが賢明です。人通りの絶えた日暮れに一夜の宿を探す旅人
の不安な気持ちが伝わってきます。
この歌に詠われている勝野が高島町の中心地です。

「大御船 泊ててさもらふ 高島の
   三尾の勝野の 渚し思ほゆ  作者:不詳 万葉集(巻七)」

 陸路のほか、琵琶湖を船で往来する水上交通もあり、この地は大津と今津や塩津の中間に位置する港です。
強烈な比良おろしが吹く日など、作者は何日も風待ちをしたことでしょう。
鉄道やトラックでの大量輸送が可能になる時代まで、長いあいだ重要な港町でした。

 湖西の要衝である勝野に豊臣秀吉の命により着任したのが京極高次です。京極家は父方が源氏の流れをくむ
佐々木氏の別家で、母方が北近江の戦国大名の浅井氏、という由緒ある武士の家系。
 この京極高次の妻が 初(はつ)。初の母は織田信長の妹お市の方。父は浅井長政。美人三姉妹といわれた
うちの次女。長女が 茶々(ちゃちゃ)で秀吉の側室淀君。末っ子が 江(ごう)で江戸幕府2代将軍徳川秀次
の妻。

 江戸時代の勝野は大溝藩の城下町で、京極氏に代わり 伊勢上野藩(現在の三重県津市)から移封してきた
分部(わけべ)氏が治めました。このため伊勢上野のことばの影響もあるかもしれません。
大溝城は今も石垣が残っています。

「しらひげの 神のみまへに わくいづみ
   これをむすべば ひとの清まる   与謝野 寛・晶子」

 比良山脈が東側に一番琵琶湖に迫っている岬が「明神崎(みょうじんざき)」で、ここに「白髭神社
(しらひげじんじゃ)」があります。湖中の大鳥居が国道161号線からも湖上からも目立ち、近江の
宮島(厳島)とも言われて、神社の名前から長寿の神様として知られます。
古来、白鬚神社への信仰は厚く、京都から遙か遠い当社まで数多くの都人たちも参拝されました。
9月5日〜6日の秋季大祭は特に盛大。

 このように勝野は昔から京と北陸をつなぐ交通の要衝で人の往来も多く、この地の言葉もきっと京ことば、
さらには大阪ことばの影響を色濃く受けていることでしょう。また北陸との交流もありその影響もあるでしよ
う。

 鴨稲荷山古墳(かもいなりやま こふん)を知っている、聞いたことがあるという方も多いでしょう。勝野の
北方2Kmにあり、古墳時代後期の全長45m・後円部の直径25m・高さ5mほどの前方後円墳です。巨大な石棺や
加耶の影響を受けた純金製の耳飾りなど副飾品が出土したことから、朝鮮半島との交流が盛んだったことを裏
付けます。もしかしたら朝鮮の古いことばの影響があるかもしれません。

 勝野とその近辺の村で私達は生まれ育ちました。現在は、平成の大合併で周辺の6町村が合併して高島市と
なりました。その市の最南端の地域です。
JR湖西線の近江高島駅で下車するとそこが勝野です。車ですと京都や大津方面からは湖西道路が便利で、彦
根方面からは湖北回りも可能です。ぜひ訪ねていってください。

高島市観光情報および参考文献
1 河童老「万葉集を訓む」
2 白髭神社
3 開物発事さん 鴨稲荷山古墳
4 びわこ高島観光協会のHP
5 高島市のHP
6 高島市勝野周辺の地図

                                         初版 '10.08.01
                                         2版 '10.08.02  
                                         3版 '10.08.04  
                                         4版 '11.01.30  
                                         5版 '11.07.26  
                                         6版 '12.05.01
                                         7版 '12.05.17  
                                         8版 '12.06.15  
                                         9版 '13.01.07  
                                        10版 '13.05.24  
                                        11版 '13.10.03  
                                        12版 '15.06.11  
                                        13版 '15.08.14
                                        14版 '16.10.11
                                        15版 '18.05.10
                                        16版 '18.09.04

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