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  『IFアダプター』の製作 TS-590Sにバンドスコープを付加、遠隔操作も可能              QST Magazine Product Reviews 最新版から引用 Ver.1.4 '16/07/03                  ウォーターフォールの設定箇所を記載 Ver.1.3 '16/06/13                      8.IFアダプターの設計変更 Ver.1.2 '16/05/16                             7. 一次評価 Ver.1.1 '16/05/07                                    Ver.1.0 '16/05/02                                     JA3OOK 中村 利和  PA1HR の Website に載っている 2016年版の QST Magazine Product Reviews によると、 現時点(2016/07/03)での20位までの日本製リグは、  1位 FTdx5000D  3位 TS-590SG  4位 IC-7851  9位 TS-990S  10位 FTdx3000  17位 TS-590S で、これら6機種です。  この順位付けの評価指標は 2 kHz 3rdorder dynamic range です。TS-590Sの耳の良さは、スプリ ット運用でCWのパイルに参戦しているときのDX信号の聞き取りの良さで実感しており、この評価と 一致しています。評価項目の一つである送受切替時間の短さも特筆すべき性能であり遠隔操作運用 には必須条件です。  私はTS-590Sを3年半前に購入しローバンドを中心に160mから10mの主にCWによるDXで使用してき ました。全QSO数は約2200、QSOのバンド別モード別内訳は次の通りです。    この期間、TS-590Sの性能や操作性に大きな不満を感じたことはありません。 先ほどのプロダクト・レビューでTS-590SGやTS-590Sは他の指標も良い評価を得ていてTS-590Sを選 んだことに満足しています。でもTS-590SGもほしいなあ。  TS-590の欠点はバンドスコープがないことです。(もう一つはデュアル受信ができないこと) この欠点を補いたくてバンドスコープ(ウォーターウォール)にトライしました。 ポイントは『IFの取り出し』と『IFアダプター』、『SDR受信』です。  リモートデスクトップ(PCの遠隔操作)が可能であれば、遠隔操作無線局での利用も可能です。 ★TS-590内部の繊細な回路に触れ弱い信号を取り出す作業です。TS-590を壊したり、本来の受信性  能を損なう恐れがあります。試みられる方は慎重に自己責任で行ってください。 1.IFの取り出し   トランシーバーでのバンドスコープの実現はIFの取り出しがキーポイントです。IFの取出しが  できなければ次に進めません。   TS-590SのSERVICE MANUAL(参考文献2) 131ページの回路図を精読し TX-RX UNIT の CN301コネ  クターに着目しました。ダウン・コンバージョンでの1段目IFフィルター(ルーフィングフィル  ター)に入る直前の広帯域の受信信号をこのコネクターから取り出せそうです。  CN301は105ページの左端真ん中あたりに見えます。1/10インチピッチのピンなので相方のソケ  ットも入手が容易です。(CN301の本来の目的は調整時の端子)  なお、ダウン・コンバージョンでのIFから取り出しているので、1.8、3.5、7、14、21メガ帯で、  受信DSPフィルター帯域幅2700Hz以下の場合だけですが私には十分です。   このCN301からIFを取り出してバッファ(IFアダプター)を介した上でSDR(Soft66Lite)へ入力  しました。バッファを介した理由は次の通りです。   CN301に挿した線を直接SDRに接続し実験したが、    ・TS-590の受信レベルが少し下がってしまう。    ・バンドスコープに表示される信号が弱すぎる。   という問題が判明。原因は    ・信号線からCN301へ15PFのコンデンサーで接続されておりハイインピーダンスと思われる。     Soft66Liteの初段RF増幅ICが μPC1688 であり、入力インピーダンスは50Ω(参考文献3)     であるのでインピーダンスが違いすぎると推定。    ・LEVEL DIAGRAMを見るとCN301の信号レベルがわずか -107dBm(SERVICE MANUAL 162ページ)     であり予想外に小さい。  ということが分かったのでIFアダプターを製作し取り付けることにしました。 2.IFアダプターの製作   このIFアダプタに求められる仕様は次の通りです。    ・入力インピーダンスが超ハイなアンプ    ・SDRの入力インピーダンスに合わせてローインピーダンス出力   IFアダプターへのDC電源を TX-RX UNITボード から供給したかったが適当な取り出しピンが見  つからずSDRから供給しています。(半田付けすれば取り出せるがそれはイヤ)  IFアダプターの回路図と写真がこれです。(設計変更後のもの Ver1.2 2016/05/16) (v1.0の回路ではゲイン不足であった)         2ピンソケットにCN301のピンを差し込む。2ピンソケットはハイインピーダンスと高増幅度で  ある故に電界に敏感なので金属板で囲ってシールドしている。これはv1.0では必要なかった工夫  です。   可変抵抗器はゲイン調整用です。Soft66Liteのゲイン調整との兼ね合いで調整する。  基盤の大きさは37mm×22mm。わずかな隙間に入るように大きなパーツは寝かせている。     TS-590Sの底カバーを開けて撮った写真が左側。白色の長方形がCN301。このCN301のピンを製作  した基盤のピンソケットに差し込み、SDRとの配線の接続が終わった状態が右側の写真。       基盤を裏向きに実装しているのはCN301のピンを差し込んだ状態での全体の厚みを薄くし底カバ  ーに接触させないことが目的です。さらに、基盤の配線面とTX-RX UNITボードの配線面をできる  だけ離して干渉を避ける配慮もありますが必要性と効果は不明です。  (写真は撮っていませんが、底カバーと接触させないため基盤に小さなポリ袋を被せてから底カ  バーをしています) 3.SDRハードウェアについて   前述のようにSoft66Liteを使用したSDRである。これは別の記事で紹介したもの。  Soft66Liteへ与える周波数は、IFの中心周波数である11.374MHzだとバンドスコープに現れる何か  のスプリアズの縦線が多いので、実験の結果11.376MHzとしている。 4.SDRソフトウェアについて   SDRsharp(SDR#)を使用している。HDSDRと比較した感じでは、CPU使用率が低かったこととCW信  号の有無が分かりやすいように思う。動作させているPCはARHPやSkypeと同一のPC。   CW Skimmer も原理的には問題なく使えるはずなので、いずれ実験したい。 5.遠隔操作での利用   バンドスコープが表示されるのが送信所のPC画面なので、遠隔操作で送信所PCにアクセスでき  るツールなら、レスポンスや伝送効率、信頼度が良ければ何でも良いだろう。   現在は TeamViewer を利用している。これが遠隔操作側のPCの画面例。      SDR#のウインドウだけ表示させているのでバンドスコープ画面が大きく映ります。(デスクト  ップ全体を表示させると余計なものが映りこみ、肝心のバンドスコープ画面が小さくなります)   画面左上は遠隔操作所PCのCPU利用率であり余裕がある。SDR#のウインドウだけ表示させた方が  CPU使用率も低いように感じます。  ネットワーク通信量は100kByte/s程度です。   心配していたウォーターフォールの流れも自然であり違和感はありません。CWも違和感無く  送受信できます。   遠隔操作所のPCは、     NECノート LM530 Intel Core2 Duo 1.40GHz メモリ 4GB Win7 Home Premium  インタネットプロバイダーはケイ・オプティコムのeo光ネット【ホームタイプ】100Mコース。  送信所は京丹波町ケーブルテレビのインタネットサービス(下り30Mbps、上り2Mbps)。 6.所感  ・KENWOODへの希望です。TS-590にIFを外部に取り出す端子がほしい。TS-590の送受信性能および   遠隔での操作性にも大変満足しているので尚更のこと。   現行のTS-590シリーズに無理なら次期マシンにぜひ設けてほしいです。 7. 一次評価   数日、時間がある時に運用してみたが感度不足を感じます。調整を4箇所行っても少し弱めの  局になると写りません。(調整箇所はIFアダプター、Soft66Lite、PC録音デバイス、SDRソフトの  ゲイン調整)   IFアダプターにもっとゲインを持たせる方向で検討します。 8.IFアダプターの設計変更   IFアダプターの半導体の構成を2段から3段に増やしゲインを増やしました。(2.項の回路  図や写真は変更後のもの)   これで実用レベルになったと思います。    ・590Sでぎりぎり聴える微弱信号はバンドスコープに表示されない問題は残っているが大い     に改善された    ・バンド変更の度にスコープのコントラスト調整などが必要でめんどくさい     場合によってはサウンドデバイスの録音レベルまたはSoft66Liteのフロントエンドのボリ     ューム調整も必要になることも    ・バンドスコープにスプリアスが表示される場合がある(IF周波数のバンドパスフィルター     を入れることで改善できるかも)    ・590Sの受信には感度、ノイズなど異常ない。スプリアスも感じない   大変満足できるとは言いがたいですが、合格かなと思います。冬のローバンドのワッチには役  立つかなっと期待しています。   弱い信号でもウォーターフォールで見分けられるように表示するには、『設定』が重要です。  下記にSレベルが1の弱い信号も見分けられるための設定の例を示します。   ・SDRsharp 設定周波数:11.376MHz(TS-590SのIF中心周波数+2kHz)   ・7メガCW受信例 7.0095MHz TS-590SのSメーター:S1 受信DSPフィルター帯域幅:400Hz     表示画面 日時:2016/06/13 08:55JST (遠隔操作所での表示画面)      -2kHz付近の細い白色縦線が7.0095MHz S1 の信号。その線の一番下の太目の線は交信相      手局でS3。(当局の環境は周辺ノイズレベルがとても低いことが多い)          SDsharp MODE:USB 受信位置(バンドスコープ画面の極細赤い縦線の位置):-3.80kHz          Contrast:50%くらい  Rangeで主に調整:30%くらい  Offset:0%     送信所PC Soft66LiteからのIQ信号をマイク端子へ入力           マイクレベル:85% ブースト:0.0db         表示性能とは関係ないが、SDRsharpの音声出力とTeamViewerの音声入力はミュー         トしておく。(インターネット負荷軽減のため)     IFアダプター レベル調整用VR1の回転位置:70%ほど   ・SSB も上記設定でS1の信号もぎりぎり見分けられます。  留意事項   ・受信DSPフィルター帯域幅を2700Hz以下にすることを忘れないように。   (2700Hz超にするとアップコンバージョンになりバンドスコープが表示されない)     参考文献 1 PA1HR QST Magazine Product Reviews 2016   見つからなければこちら    QSTマガジン プロダクト レビュー Version March 30, 2016      1位 FTdx5000D       3位 TS-590SG      8位 TS-990S      9位 FTdx3000      16位 TS-590S      20位 IC-7700     QSTマガジン プロダクト レビュー Version June 27, 2016 2 Kenwood Corporation TS-590S SERVICE MANUAL 3 CQ出版社 トランジスタ技術 2002年12号 226ページ 高周波信号の増幅 μPC1688 4 AIRSPAY SDRsharp 5 TOSHIBA 2SK192A datasheet (英文をお勧めします。日本語データシートの静特性図の説明に   誤植があり、見抜けず長時間戸惑いました) 6 TOSHIBA 2SC1815 データシート 7 ホロンさんのブログ 『FETの話B 増幅回路』、『FETの話A 2SK30A』 8 定本 トランジスタの設計 第23版 2007年2月1日 CQ出版 発行

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