ローパスフィルターの製作 Ver.1.0 '09/01/05 All rights reserved JA3OOK 中村 利和 「備えあれば憂いなし」「ころばぬ先のつえ」「基本に忠実」・・・ TV放送電波の電界強度が強い私の環境ではスプリアスによるTVIの発生は認められませんが、 もし室内アンテナなどを使っているTVがあればTVIが発生している場合があるかも知れません。 先ほどの格言にもあるように、HFを運用する場合のTVIへの基本的対策として高調波のスプ リアスを可能な限り低減するに越したことはありません。 そのために、ローパスフィルター(L.P.F.)を接続して電波を出すことは当然のマナーと言えるかも しれません。 それでL.P.F.がほしくなりますがメーカー製を買うとなると高価でもあり、性能の違いもよく分か らないため、どれを買えばよいか決断できず、ついに自作することにしました。 1.設計の基礎知識 HF用のL.P.Fの設計に役立つWebをインタネットで探したが見つからず、手持ちの本や資料 を調べたところ、文献1「トロイダルダル・コア活用百科」の第5章に原理が記載されていた。 この文献に記載されていた要点は次のとおり。 ・L.P.Fの基本回路にはλ/4π型とλ/4T型がある。(λはラムダ。πはパイ。以下同様) 設計条件は(π型、T型共通で) XL=XC=ZO ただし、XL、XCはコイルとコンデンサーのインピーダンス XL=2*π*f*L XC=1/(2*π*f*C) fは設計周波数 ZOは入・出力インピーダンス (πはパイで円周率) ・どちらの基本回路も直列に接続することにより2段、3段、4段などの多段が可能で ある。 ・1段の場合に-3dBの減衰を受ける周波数は設計周波数の約1.55倍。 多段の場合に-3dBの減衰を受ける周波数は設計周波数の約1.35倍。 2.実施設計 2.1 型と段数の選定 文献2「CQ ham radio August 1987 」に載っているJR1AIB井上康之氏の自作例や その中で引用されている自作例はπ型3段接続をベースにしており、私もπ型3段接続 を製作することにする。 2.2 コンデンサーの選定 文献2の自作例はどれも可変コンデンサー(バリコン)を使用しているが、できるだ けシンプルな回路にして調整箇所を減らして再現性を高くしたいので固定コンデンサー を使用したい。 これらの自作例から百数十PFくらいで高電圧に耐えられるもの必要なことが分かる。 手持ちの部品箱から条件に合うコンデンサーを探すと150PF 1KV程度のものがが出てきた。 2.3 設計周波数の決定 前述の式 XC=1/(2*π*f*C) を変形して設計周波数fは f=1/(XC*2*π*C) 50Ωの同軸ケーブルに接続するので XC=50、コンデンサーの値Cは C=150PF f=1/(50*2*π*150PF) =21.2MHz -3dBの周波数は 21.2MHz*1.35=28.62MHz であり、24メガバンドまで使用できる L.P.F.に利用できることが分かる。私は21メガバンド以下しか出ないので十分である。 2.4 コイルの設計と製作 前述の式 XL=2*π*f*L を変形してコイルの値Lは L=XL/2*π*f 同軸ケーブルは50Ω、fは21.2MHzなので L=50/2*π*21.2MHz =0.376μH 直径1mmの銅線の在庫があり、これを巻いてコイルにする。 グリッドディップメーターでLCの並列回路による共振周波数を測定することにより、 カットアンドトライで巻き数を決めることにする。 使用する予定のコンデンサーと組み合わせると、共振周波数ftは ft=1/2*π*√(L*C) <-----おなじみの共振周波数式 =1/2*π*√(0.376μH*150PF) =21.2MHz 手持ちのナット回しに巻きつけることとしたので内径は9mmであった。 上記の方法で製作するとほぼ密巻き状態で9回前後となった。 2.5 回路図 設計結果の回路図は次のとおり。 CとLの値と仕様は前述のとおり。 2.6 筐体 金属の筐体を使用する必要があり、半田付けや板金工作および入手の容易さから0.2ミリ 厚の銅版を使用した。 コイルとコンデンサーのサイズから筐体のサイズは 幅:5cm 長さ:11cm 高さ:4cm とする。 長て方向に等分に3部屋に分け、銅版で仕切る。 上からかぶせるカバーも同じく銅版で作る。 3.製作 3.1 コイル 2.4項で記述した方法で3個製作する。 3.2 筐体の加工 ・銅版に切り取り線と折り曲げ線を鉛筆で記入する。 ・M型接栓を取り付ける位置にドリルとリーマーで穴を開ける。 ・切り取り線に沿って金きりはさみで切り取り、折り曲げ線に沿って折り曲げて筐体本 体を作る。 ・M型接栓を取り付ける。(M型接栓が緩まないように半田付けするとベスト) ・筐体本体の出来上がりサイズに合わせて間仕切り板を作る。 ・コイルの位置や方向、貫通穴の位置を決定し、間仕切り板にドリルで貫通穴を開ける。 貫通穴に中空絶縁体を入れる。(貫通穴は大きすぎないこと) ・折り曲げた筐体のすきま、筐体と間仕切り板を半田付けする。 (60Wの半田こてが必要であった) ・カバーを筐体本体の出来上がりサイズに合わせて作る。 3.3 配線 ・コイル、コンデンサーを半田付けする。 このときコイルは変形させないように留意する。もし変形するとリアクタンスが変わっ てしまう。 4.調整 L.P.F.によるSWRの悪化の最小化が調整の目的である。 コンデンサーの誤差が小さく、念入りにコイルが製作されていれば、調整を行わなくても目標 範囲に入っていることもありえる。 調整する場合の要点は次のとおり。 ・L.P.Fを接続しない状態でのSWRが基準となる。(当たり前) ・コイルの長さを伸縮させて調整する。 長くするとリアクタンスが減少する。 縮めると リアクタンスが増加する。 その判断は次の方法で行うことが可能。 写真のような治具を用意する A 銅線を丸めて円形を作り、これを先端に取り付けた絶縁棒(写真の右側) (丸めた銅線の先端どうしは半田付けし導通させること) B フェライトコアの棒(用意できなくても可、写真の左側) もし、Aをコイルの頭に近づけてSWRが 下がるならコイルを長くする 上がるならコイルを短くする 注意点 非常にクリティカルなので、コイルの一部分だけの変化で十分である。 もし、Bの用意があるなら、Aと全く逆のことを行う。 (もし理想状態に調整されているなら、 AまたはB、どちらを近づけてもSWRが悪化する) ・3個のコイルについて交互に調整しSWRを下げていく。 ・21メガバンドで調整し、それより下のバンドについても確認する。 目標範囲に入っていなければ調整を繰り返す。 5.完成 6.測定 まず、50.0MHzにおける効果の測定結果。 左がL.P.F.を入れない状態。右は入れた状態で、ノイズ以下である。 次に、21.150MHzにおける損失の測定結果。 左がL.P.F.を入れない状態。右は入れた状態、2.5dBの損失である。 21メガバンドの実際の受信においては、S9の信号がS8.6程度となるが、もちろん耳Sで は全く違わない。 これを減衰しすぎと考えるか、無視するか? う〜ん! 7.反省点 コイルが少し熱を持つ。上記の測定においても損失が発生している。2mmくらいの銅線ある いはスズメッキ線を使用すべきかもしれない。 その場合は筐体も大きくしないと収容できない。 出来上がった筐体の強度はこの大きさでは十分あると思うが、見栄えは少し弱々しいので、 もう少し厚い銅版を使用すべきかもしれない。ただし板金工作が手ごわくなる。 なお、上記の各回路図は水魚堂提供の「回路図エディタ」で作図した。感謝します。 参考文献 1 トロイダル・コア活用百科 山村 英穂 第11版 1991年2月20日 CQ出版社発行 2 私のインターフェア対策 著者 JR1AIB 井上康之 CQ ham radio August 1987 3 水魚堂