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超3極管接続6FQ7シングル 気軽に使えて音のよい真空管アンプ
          1.項の「進化するパワーアンプ」の中の記述個所を明記 Ver.1.1 '14/12/15
                                   Ver.1.0 '08/10/04
                          All rights reserved 中村 利和 JA3OOK
1.超3極管接続を選んだ訳
  2年前に「気軽に使えて音のよい真空管アンプ」を目指して「6FQ7シングルプリメインアンプ」
 を製作した。その音質についてその記事の16項に書いたように「極低音のしまりの不足」を感じ
 不満を持っていた。
 そこで、その弱点の克服を目指し、上条信一さんが最初にMJ無線と実験1991年5月号で発表された
 超3極管接続アンプに注目した。
  文献1上条信一さんの「進化するパワーアンプ」の「超3極管接続 16A8シングル 2.5W+2.5W」に
 よると
  「超3極管接続とは、3極管を帰還素子に用いて、その定電圧性を利用した回路です。
  その回路が等価的に、プレート抵抗の桁違いに低い1本の3極管に見えることから、
  この方式を超3極管接続と命名しました。 
   プレート抵抗が低いと出力トランスを強力にドライブできるため、周波数レスポ
  ンス、ひずみ率、ダンピングファクターが向上します。
  その結果、出力トランス2次側からのNFBは無用化し、従来の真空管アンプの常識を
  超える高水準の音が得られます。」
 と書かれており、極低音のしまり不足の解消を期待でき、製作してみる。

2.製作目標と使用真空管
  消費電力が少なく(従って温度上昇が少なく)気軽に使え、もちろん音のよい真空管アンプを
 目指すことには変わりがない。
  上条さんを初め諸先輩の製作例を調べたが、比較的消費電力の多い真空管を使用されており、
 小電力の例としては6BM8(または相当品)の使用が多い。
  省電力性、基本的音質のよさ、小部屋で聴くには十分な出力などの魅力的性格を持つ6FQ7
 を除外しがたく、これを採用する。
 6FQ7は双3極管であり左右各1本(計2本)でステレオメインアンプを構成できる。

  6FQ7シングルプリメインアンプのトーンコントローラーやフォノイコライザーなどには何
 も不満はなく、メインアンプ部分だけを通常のシングルアンプから超3極管接続シングルアンプ
 に改造する。

3.回路の決定
  前記上条信一さんのHPの各種製作例を検討し、私なりの実験を経て回路構成を決定した。
 (1)超3極管接続のV2(パワー段)のバイアス方式の選択
     最初カソード抵抗方式で実験したところ、上条さんが指摘されているとおりカソード電
    流の変動が非常に大きく、6FQ7の最大プレート損失を守ることが不安に思われ
    上条さん提案の定電流回路をカソードに入れる方式に決定した。

 (2)V2(パワー段)定電流回路の選択
     定電流ダイオードをV2のカソードに入れて実験したところ温度変化による電流の変化
    が大きいことが判明した。(自身に流れる電流での温度上昇を低減するために、1〜4mA
    程度の定電流ダイオードを複数パラに接続して実験したが、それでも温度が上昇して電流
    が変化するようだ)
     定電圧レギュレータと抵抗の組み合わせによる定電流回路(文献2)を組み実験したと
    ころ、温度変化による電流値の変化が小さいことが分かり、この方式を採用した。

 (3)真空管の動作点の変更と電源回路の見直し
     超3極管接続での適切な動作を目指してロードラインと電源を見直した。
      ・単純なシングルアンプより高いプレート電圧が必要になり、電源の平滑回路に手持
       ちのチョークコイルを組み込んだ。これに伴って電源系統の各抵抗の値も見直した。
      ・V2(パワー段)、V1(NF段)のロードラインを、電源系統と合わせて検討しながら
       設計し直した。(V2のプレート電流は、以前と同じとした)
       V2(パワー段)の設計結果は次の図のとおり。(ロードライン=7kΩ)

 6FQ7のロードライン図

 (4)初段トランジスタ
     トランジスタは手持ちの中から最大コレクター電圧が比較的高いもの(トラジスタ規格
    は文献4で調査)を選択し、バイアスの駆け方は上条さん提案の定電流ダイオード方式を
    採用した。
     
 (5)定電流ダイオードへの電源供給方式
     定電流ダイオードへ流す電流はB電源から直接供給している。
    この理由はV2のカソードから供給すると、V1とV2のヒーターが加熱される時間差に
    より、トランジスタのコレクターに高電圧が加わることが実験で判明したので、B電源か
    ら供給して、この問題を回避した。

4.設計と製作
   他のアンプと同様に回路設計はExcelで行った。これがこの超3極管接続6FQ7シングルアン
  プの設計結果である。
   「6FQ7シングルプリメインアンプ」のメインアンプ部分と電源部分を元に改造した。

5.評価
   音質の評価のために、まず片CHだけ超3極管接続に改造し左右で聞き比べを行った。
  左右の電圧やロードラインが微妙に違うので厳密な比較はできない理屈になるが、そこは目を
  つぶってもよい程度だろう。で、その結果は、
   ・肝心の極低音でのしまりの違いが左右で明らに違い、課題が解決されている。
    6EM7全段差動型アンプとの比較でも全く遜色がない。
   ・低音〜超高音においてもなんら不具合は生じていなく、6EM7全段差動型アンプとの比
    較でも遜色がない。

   次に反対CHも改造した。
  実測電圧などをExcel中に吹き出しで記入してある。
   ・出力電力は当然ながら、以前の単純シングルアンプと実質的に変わりが無い。
   ・低音〜超高音とも過不足のない音質で、素直で透明な音色である。
   ・極低音も何の問題もない。以前に感じた極低音のしまりの不足も感じない。
    オーディオ発振器から30Hz程度の周波数を入力するテストにおいても問題はない。
    極低音も素直に表現できており、トーンアンプをONにして低域をブーストする必要性は
    全く感じなくなった。
   ・ダンピングファクター(DF)は実測値で5.4。以前の値は1.8。格段に良くなっ
    ており、しまった極低音をしている。
   ・波形観測も行った。矩形波の20Hz、1000Hz、10000Hzの写真である。
    各写真の上が入力波形、下が出力波形である。

超3極管接続20Hzの波形以前の6FQ7 20Hzの波形6EM7 20Hzの波形
  20Hz
     本アンプ(6FQ7超3極管接続)         6FQ7シングル               6EM7差動型
    6FQ7シングルは出力波形が崩れており明らかに本アンプが優れている。
    6EM7差動型と比べても超3極管接続の方が入力波形に近い。    
    なお、本アンプの入力波形がダレているのは入力回路にコンデンサーが直列に入っている
    せいであろう。

超3極管接続1000Hzの波形以前の6FQ7 1000Hzの波形6EM7 1000Hzの波形
  1,000Hz
     本アンプ(6FQ7超3極管接続)         6FQ7シングル               6EM7差動型
    6FQ7シングルはオーバーシュート(リンギング)が認められるが本アンプには認められない。
    6EM7差動型も素直な波形である。

超3極管接続10000Hzの波形以前の6FQ7 10000Hzの波形6EM7 10000Hzの波形
  10,000Hz
     本アンプ(6FQ7超3極管接続)         6FQ7シングル               6EM7差動型
    6FQ7シングルはオーバーシュートが顕著で、6EM7差動型にもわずかに認められる。
    本アンプが一番素直である。
    6FQ7シングルと6EM7差動型の入力波形にオーバーシュート(リンギング)がある
    のはNFによるフィードバックの影響であろう。

   耳で聞いても測定器による波形観測でも超3極管接続の良さを実感した。このアンプを末永
  く愛用していきたい。

6.本アンプの写真
正面上からの外観

斜め後方からの外観

超3極管接続の配線

参考文献
1 上条 信一
  ・「進化するパワーアンプ」 http://www.ne.jp/asahi/evo/amp/index.htm
2 木村  哲
  ・(株)日本実業出版社発行「情熱の真空管アンプ '04/5/20 第2刷」
  ・ 「情熱の真空管」 http://www.op316.com/tubes/tubes.htm
    の中の「プリアンプ&ヘッドホンアンプを作ろう!
         PHONOイコライザー・アンプ<スタディー編>
         PHONOイコライザー・アンプ<試作・実験編>
3 Frank Philipse
  ・「Frank's Electron tube Pages 」http://www.tubedata.info/
4 蝦名 毅(エビナ ツヨシ)
  ・「マイナーオーディオの部屋」 http://www.minor-audio.com/
    の中の「トランジスタ・FET規格表」


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