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       2A3シングルアンプの完成写真
2A3シングル・ステレオメインアンプ              Ver.1.0 '06/06/22
                                Ver.1.1 '06/07/02
                                Ver.1.2 '06/07/27
                                Ver.1.3 '06/09/12
                                Ver.1.4 '06/12/04
                                Ver.2.0 '08/03/28
                                Ver.2.1 '08/12/28
                      All rights reserved JA3OOK 中村 利和

 直熱管2A3を使用したシングル・ステレオメインアンプを製作しました。
特徴は次の通りです。
 a 出力管は音質に定評のある直熱3極管「2A3」を使用
    ・小さい出力で十分なのでシングルとする
    ・2A3の動作条件は直線性を優先して設計
 b オーソドックスな回路構成とし基本的性能と製作の容易性を確保
    ・構成は電圧増幅2段+電力増幅
    ・電圧増幅2段には双3極管である「6SN7GT」を使用
    ・オーバーオールNFをかけるため電圧増幅の2段は直結とする(P・G直接接続)
    ・2A3も自己バイアスとし、バイアス電圧系トラブルからの事故防止
 c 各真空管ともロードラインの設計から行い、電圧や電流、抵抗値などの計算はExcelで
   行って各真空管の最適動作や周波数特性を追求

 設計と製作において、木村 哲 氏による「情熱の真空管アンプ」(文献1)および同氏の
ホームページ(文献2)を大いに参考にしました。
 真空管の規格特性は、Frank Philipse氏のデータベース(文献3)などを主に利用しました。
両氏をはじめ、真空管アンプを開拓されてきました諸先輩に深く感謝しますとともに敬意を表
します。

1.出力段の設計
  古くから定評のある直熱3極管を使用してオーディオパワーアンプの設計製作に挑戦した。
 この種の真空管の値段は近年上昇しており、何を選ぶかは思案のしどころであるが私にも手
 が届く2A3とし、6畳間で聞くには最大で3W前後も出れば十分であるのでプッシュプル
 ではなくシングルとした。
  シングルの長所である左右の音の分離の良さも期待できるが、反面、周波数特性の極低域
 への延びが損なわれる恐れがあるので出力トランスの選択には十分留意する必要がある。
a 出力段の論理設計
  まず出力管2A3のEP・IP特性図をもとに望ましいロードラインを決定する。
 図1 2A3のEP・IP特性図 を見ていただきたい。
    
          図1 2A3のEP・IP特性図
  この図は参考文献3のデータベースに所蔵されているRCA発表の図であり、細線が私の
 記入したロードラインとその基本的電圧と電流の値である。
 
  ロードラインは3.5KΩとしたがその理由は次の通り。
   ・一般にロードが高い(インピーダンスが大きい)ほど直線性が良い性能が得られる。
    このことは図1でグリード電圧の各線が、-43.5V中心で2500Ωのライン上でのバラン
    スと53V中心で3.5KΩのライン上でのバランスを比較すると、後者の方がバランスが
    良いことが読み取れる。
   ・一方、一般的にインピーダンスが低い出力トランスほど周波数帯域の幅が広く、
    インピーダンスが高いほど周波数帯域の幅が狭くなる。
   ・上記の特性を考慮して3.5KΩとした。
  動作の中心をどこに置くかも悩ましい点だが、2A3の規格での最大プレート損失は15W
  であるが少し余裕を持たせた上で出力も稼ぎたいことから、図1の細線で記入した動作条
  件とした。
   決定した動作条件をまとめると次の通り。
   ・負荷          3.5KΩ <根拠(以下同様):前述>
   ・プレート電圧(P-H間) 280V(プレート電圧変化の中心点)<図1>
   ・プレート電流      50mA(プレート電流変化の中心点)<図1>
   ・バイアス        -53V <図1において280Vと50mAの交点のバイアス値>
   ・動的プレート電圧
          max425V min95V(プレート電圧変化のmaxとmin)
          <図1から読み取り。バイアス0Vと-106でのそれぞれのプレート電圧> 
   ・入力信号       106V/p-p <53V×2> 37V/rms <√53V、rms:実効値>
   ・プレート損失      14W <280V×50mA>
   ・出力(NFなしの場合) 3.9W
             <(425V-95V)/2√2=116.7V   (116.7V×116.7V)/3500Ω=3.9W>
  なお、ロードラインを決定するに当たっては文献1の「第2章増幅回路ベーシック」を参考
 にした。
  バイアス方式はカソードバイアスとした。これはバイアス電源やバイアス調整回路が不要
 で部品点数を減らせて製作しやすいこと、およびバイアス系回路が故障した場合に2A3が
 暴走する恐れも無くせるメリットがある。反面、バイアス抵抗自体での熱発生が大きくなる
 ので(推定2.3W/2A3 1本当り)カソード抵抗に大きなワット数(最低10W規格<2.3W×4
 倍>、できればそれ以上)の抵抗が必要となるが目をつぶることにした。
  出力段に必要なB電源として338V程度<280V+53V+出力トランス電圧降下5V程度>で100
 mA以上、リップル電圧0.01V以下が必要である。
b 出力段の電気設計
  実際の回路および電圧値、電流値、抵抗値はExcelで記述し、電圧、電流、抵抗などが相
 互に影響しあうので計算式を記述しておき、手入力した値から計算をさせている。
  市販の抵抗やコンデンサーの値は一般に限られた(JISで標準化された)数値の物しか
 入手が困難であり、値が一致しなくても一番近い標準値のものを使うか標準値の物を直列や
 並列に接続して実現することになる。必ずしも論理設計値とおりにならなくても近似値で実
 装しても差を聞き分けることは私にはできないと思われる。このことは前段や電源において
 も同様である。
  2A3は直熱管であり直流点火すべきかどうか迷ったが、まず交流点火で行ってみてハム
 音が大きすぎれば直流点火に変更することとした。
  交流点火の場合に、普通はハムバランサーを使用するが、自己バイアス抵抗をヒーターの
 両極から配線することでハムバランサーと同等の効果を期待し実施した。

2.前段の設計
  前章でのロードラインの設計結果から、2A3への入力信号の最大値は前述の通り
   ・入力信号 37V/rms <rms:実効値。以下断らない限り実効値>
 が必要である。
  一方、メインアンプへの入力信号レベルはmax0.5Vくらいとすると74倍<37V/0.5V>の
 電圧増幅を行う前段が必要である。
  前段でこれだけの増幅を1段で行うにはμ(電圧増幅率)が74以上の管が必要であるが、
 μが高い管はrp(内部抵抗)も高く、μの高さとrpの高さにより高域を減衰させるので1段
 増幅では無理であると判断し、μもrpも低い管による2段増幅とした。
  μもrpも低い電圧増幅管は入手の容易さや価格からMT管なら12AU7がベストであるが、
 2A3の外形にマッチするようGT管にしたくて6SN7GT(μ=約20、rp=約10KΩ)
 を選択した。
  負帰還は前段の初段に戻したいので全体で3段にまたがった負帰還となる。負帰還の信号
 ループ内にコンデンサー(実質的にはプレート・グリッド間コンデンサー、通称段間コンデ
 ンサー)が2個以上存在すると高域での発振など問題を起こしやすくなることは常識となっ
 ている。
  (某メーカ製の昭和20年代後半の某真空管アンプはコンデンサーが2個存在しており
   発振防止の付加部品がついていた。この付加部品を試験的に取り外すと確実に発振した
   経験がある。この時の発振は可聴周波数域より高い周波数なので耳で聞こえずオシロス
   コープでのみ観測できた。可聴周波数域外ではあるが耳の良い方なら音質の悪化として
   聞き分けられた可能性が高いと思う。)
 この問題を無くするために初段と次段の間は直結(プレート・グリッド直接接続)とする。
a 初段の論理設計
  初段と次段の設計は文献2の「私のアンプ設計マニュアル」の中の20.電圧増幅回路の
 設計と計算その2(2段直結増幅回路)に記載されている設計手順に従った。
  初段の動作環境として仮に
   ・初段プレート電源電圧 174V(バイアス電圧1.5Vを引くと実質電源電圧が172.5V)
   ・プレート電流      2mA
   ・プレート負荷抵抗    56KΩ
   ・次段入力インピーダンスは直結のためなし=∞
   ・バイアス電圧     -1.5V
 とすると、
   ・直流および交流負荷   56KΩ
 となる。図2にこの条件でロードラインを引いた。
    
        図2 初段6SN7GTのロードライン図
 この図において直線性等問題なく、
   ・プレート電圧(P-K間)60.5V <172.5V-2mA×56KΩ>
      プレートアース間  62V
   ・プレート損失     0.1W <2mA×60.5V=0.1W>→3.5W以下であり問題なし
 となる。
 上記の動作条件を初段の設計結果とする。
b 次段の論理設計
  次に同様に次段の動作環境として仮に
   ・次段プレート電源電圧 330V(62V+5V=67Vを引くと実質P-Kが263V)
   ・プレート電流     3.5mA
   ・プレート負荷抵抗    33KΩ
   ・次段入力抵抗     220KΩ
   ・バイアス電圧      -5V
 とすると、
   ・直流負荷        33KΩ
   ・交流負荷        29KΩ<33KΩと220KΩとの並列合成抵抗値>
 となる。図3にこの条件でのロードラインを引いた。
    
         図3 次段6SN7GTのロードライン図
 この図における傾きがゆるい直線が直流負荷でのロードラインであり、バイアスが-5Vとの
 交点がプレート電圧である。プレート電圧は計算でも 
   ・プレート電圧(P-K間)147.5V <263V-3.5mA×33KΩ>
   ・プレート損失     0.6W  <3.5mA×157.5V=0.6W>→3.5W以下であり問題なし
 となる。
  交流負荷のロードラインは電流3.5mAとバイアス-5Vの交点を通る傾き29KΩの直線を引き、
 これが交流負荷におけるロードラインである。
  この交流負荷ロードラインに直線性等問題なく、上記の動作動作条件を次段の設計結果と
 する。
c 前段の電気設計
  実際の回路および電圧値、電流値、抵抗値はExcelで記述し、電圧、電流、抵抗などが相
 互に影響し合うので計算式を記述しておき、手入力した値から計算をさせている。
 さらに周波数低域の保証を行う目的で段間コンデンサーについて低域減衰開始周波数を計算
 し数Hz以下を目標とする。
  前段に必要なB電源は上記の電圧と電流であり、リップル電圧の小ささは重要で0.001V以下
 とする。

3.電源の設計
  これまで述べた設計結果により次の設計方針を立てた。
   ・プレート・グリッド直接接続しているので電源スイッチON時のB電源の供給遅延を
    実現する目的で傍熱整流管を使用する。
   ・左右の信号の混じりを極力なくする目的で電源系統は平滑回路の直後から左右2系統
    を明確に分ける。
   ・リップル電圧は0.001V以下。
  電源回路も同様の方法でExcelで記述した。電圧電流の計算の他にリップル電圧の計算も
  行っている。
   実際に使用する電源トランスや出力トランスが決まらないので概略での設計を進めたが
  詳細な設計はそれらが決まるまで保留とした。

4.電源トランスと出力トランスなど基幹部品の決定
  予算の都合もありできるだけ安くしたいが、せっかく作るのだから電気的特性のほかに
 見栄えも含めて一般的水準以上のアンプを作りたい。
  そんなことを考えながら選定に思案していたころ、某インターネットオークションに出品
 されているトランスなどを見つけた。トランス類、電源チョーク、シャーシ、管のソケット
 など思案中のもの、
   ・出力トランス  TANGO FC-30-3.5S
   ・電源トランス  TANGO MS-160
   ・電源チョーク  TANGO EC-10-180
 が全部ついており、頑丈な鉄のシャーシに乗せてあるものであった。
 真空管のソケットの穴の大きさや数などすべて条件に合っており、応札し落札できた。

5.詳細設計
  電源トランス、出力トランス、電源チョークのメーカーと型番が決まったので、それらの
 仕様をExcelに入力した。論理設計で求めた目標電圧と電流を供給できるよう回路の抵抗値
 を決めていったが、入手可能な抵抗値に制限があり目標電圧にぴったし合わせられない部分
 が出てきたがいたしかたない。
  設計結果はExcelを見て頂きたい。Excelはここ。
 なお、最大出力の計算式の錯誤(回路図の訂正は必要なし)はRev2で訂正した。

6.製作
  全体の配置はシャーシにすでに穴が開けられておりそれに従うが、良く考えられており
 不満に思うところはなかった。
  製作上の要点は次の通り。
   a アースラインを引く場所とシャーシへの接地場所を慎重に決める。
   b アースラインを流れる信号のループを常に念頭に部品配置と配線の引き回しに留意
     する。
   c 電源以外でもサイズの大きいコンデンサが10個、10W規格のセメント抵抗が2個
     あり、発熱も考慮して配置する。
   d 6SN7のヒータのアースは、音が出る段階まで組み上げてから、ハム音の少ない
     方をアースした。
   a〜cは相互に関連しており、実体配線図風の略図を紙に手書きして確認しながら作業
   を進めた。

7.製作結果と調整
a 波形の観測
  測定条件は次のとおり。
    ・オシレーターからの入力は-20dB(約0.5V)
    ・アウトプットトランス2次8Ω端子に8.2Ωのセメント抵抗を接続
    ・その端子で出力電圧が1Vになるよう入力のVRで調整
    ・AUDIO GENERATOR : LEADER LAG-120B(10-1MHz)
     OSCILLOSCOPE    : IWATSU SS-3510(DC-50MHz)
  負帰還(NF)なしの10KHz波形が写真1である。
    
          写真1 負帰還(NF)なしの10KHz波形写真
 リンギングが発生している。この原因は前段での高い周波数の減衰防止に気を配った(低rp
 管の採用と回路設計)結果、超高域での副作用と推測できる。つまりスタガー設計(減衰特
 性を分散させる設計)などを行うべきことへの配慮不足と推測できる。
  従ってこの解決策として試行錯誤の結果、初段のPと次段のGの間に抵抗を入れ、波形を見
 ながら値をカットアンドトライにより10KΩとした。
 10KΩを入れた波形は写真2のとおり。
    
          写真2 初段Pと次段Gの間に10KΩを入れた場合の波形写真
 10KΩを入れたままでさらにNFを少しかけた波形が写真3。
    写真3 さらに弱いNFでの波形
          写真3 さらに弱いNFでの波形写真
 これを見るとオーバーシュートとアンダーシュートになっている。NF抵抗と並列にコンデン
 サーを追加し値を変えたり、前述の10KΩの値を変えたりして試行錯誤したが高域減衰とのバ
 ランスで望ましい形を得られなかった。
  10KΩを入れた状態で、150PFを抱かしたNFありとNFなしの場合の周波数特性の比較が写真
 4である。
    
          写真4 NFの有無での周波数特性の比較グラフ
 この周波数特性を比較検討すると、NFなしで低域は10Hzで-5dB、高域は75KHzで-6dBと良好で
 あり、「10KΩありNFなし」で使ってみることとした。
  なお、リンギング、オーバシュート、アンダーシュートについては主に参考文献4が役立
 った。
  12月4日追記 その後ダンピングファクターの改善に魅力を感じて「NFあり」に変更した。 

b ハム音
  心配していたハム音はスピーカに耳を接近させないと聞き取れないレベルであり全く問題
 がない。

c ゲイン
  適切なゲインであり不足は感じない。通常10時くらいの位置かそれより下で使っている。

8.外観等
 外観は写真5.
  
          写真5 2A3シングルステレオアンプの外観写真
 内部の様子は写真6。
  
          写真6 2A3シングルステレオアンプの内部写真

9.終わりに
   一応完成した。
  しかし特に気になることは、写真7に示した40Hzの波形である。
    
          写真7 40Hzの出力波形写真
  時間の経過に合わせて出力の低下が著しい。
  出力トランスのB端子の電圧の波形を測定して見ると写真8であり
    
          写真8 出力トランスの電源側電圧波形写真
  激しく変動している。これが大きな原因と考えられ、電源系統のインピーダンスが高い
  ことが推測できる。電源系をいずれ根本的に見直したい。
   前述のリンギングやオーバーシュートについても課題と考えている。さらに改善して
  いきたい。

参考文献
1 木村  哲
  ・「情熱の真空管アンプ '04/5/20 第2刷」(株)日本実業出版社発行
2 木村  哲
  ・ 「情熱の真空管」 http://www.op316.com/tubes/tubes.htm
    の中の「プリアンプ&ヘッドホンアンプを作ろう!
         PHONOイコライザー・アンプ<スタディー編>
         PHONOイコライザー・アンプ<試作・実験編>
3 Frank Philipse
  ・「Frank's Electron tube Pages 」http://www.tubedata.info/
4 グローバル電子
  ・役に立つ設計ノート「伝送線路の基礎」「伝送線路設計のポイント」
         http://www.gec-tokyo.co.jp/ 

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